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名古屋高等裁判所 昭和59年(ネ)592号 判決 1985年6月26日

控訴人 日本ファーネス工業株式会社

右代表者代表取締役 田中良一

右訴訟代理人弁護士 吉永多賀誠

被控訴人 破産者名古屋ファーネス株式会社 破産管財人 田川耕作

<ほか二名>

主文

本件控訴(当審で拡張した請求を含めて)を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決中、被控訴人らに対する控訴人の請求中求償債権金二〇六万二八五〇円の請求を棄却した部分及び訴訟費用中二分の一を控訴人の負担とするとの部分を取消す。

控訴人と被控訴人らとの間において、控訴人の破産者名古屋ファーネス株式会社に対する破産債権が求償債権金二〇八万〇九三二円(当審で請求を拡張した)であることを確定する。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人破産者名古屋ファーネス株式会社破産管財人田川耕作

主文同旨

第二  当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、次に付加する他、原判決事実摘示中被控訴人ら関する部分と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

一  控訴人は、昭和五九年九月二九日付を以て破産裁判所に対し、破産債権届出中の求償金債権金二〇六万二八五〇円を金二〇八万〇九三二円に訂正する届出をした。右は、控訴人が、破産者名古屋ファーネス株式会社(以下破産会社という)の株式会社三井銀行(以下銀行という)に対する債務の保証人として、破産会社に対し将来行うことあるべき求償権を有していたところ、昭和五八年五月一八日銀行に対し金二〇八万〇九三二円を弁済した(これを従来金二〇六万二八五〇円と届出ていた)ことによるものである。

二  後記被控訴人破産会社破産管財人田川耕作の主張は認める。

三  しかしながら、破産法二六条二項は「同条一項の求償権を有するものが弁済をしたときは、その弁済の割合に応じて債権者の権利を取得する」旨規定し、弁済した求償権者は弁済の限度において債権者の権利を行使しうることを認めているのであって、右は一部弁済たると全部弁済たるとを問わないというべきである。従って、求償権者は右弁済の限度に応じて債権者に代位し、当然右同額の破産債権を有するものとなるのであり、債権者による債権者名義変更届の如きは、何らこれを必要としない。

(被控訴人破産会社破産管財人田川耕作の主張)

控訴人が弁済し銀行に代位したと主張する金二〇八万〇九三二円について、銀行はこれを含む金二六七万五四六六円を破産債権として届出ている。右債権については、右の他任意の弁済はなく、未だ全額の満足に至っていない。

(証拠)《省略》

理由

一  破産会社が昭和五八年一月二五日午前一〇時名古屋地方裁判所より破産宣告を受け、被控訴人管財人がその破産管財人に選任されたことは当事者間に争いがない。

二  また、《証拠省略》によれば、控訴人が前記破産宣告当時破産会社に対し、約束手形金債権金一一五二万五四四六円、同利息金債権金四一二三円、売掛金債権金五一九万〇二〇五円、貸金債権金五八四万三六四〇円の各債権を有していたこと、及び破産社会の銀行に対する債務を保証人として代位弁済した求償金債権金五〇〇万円を有することが認められる。そして、これらについての破産債権としての届出に対しては、被控訴人管財人は何らの異議もなく、その余の被控訴人らは、控訴人に対する破産会社の損害賠償債権の存在を主張するものの、それが右届出債権の存在を否定することとなるべき何らの主張立証もないから、控訴人の前記各債権は、これを本件破産債権として確定しうるというべきである。

三  そこで控訴人主張の求償金債権金二〇八万〇九三二円について、破産債権として確定しうるかにつき検討する。

(一)  《証拠省略》によれば、控訴人はかねてから銀行に対し、破産会社の銀行に対する借入金債務、商手割引残債務につき連帯して保証していたが、破産会社に対する破産宣告後の昭和五八年五月一八日、破産会社の銀行に対する債務元本及び破産宣告前日までのその利息金債務についての右連帯保証債務の一部弁済として、銀行に対し金二〇八万〇九三二円を支払ったことを認めることができる。

(二)  控訴人が前記一部弁済した債権について、銀行が昭和五八年三月一四日、右弁済分を含む債権全額を破産債権として届出済であることは当事者間に争いがない。

(三)  ところで、主たる債務者が破産宣告を受けた場合、これに対し将来行うことあるべき求償権を有する保証人は、債権者がその債権を破産債権として届出していない限り、その全額について破産債権者として権利を行いうるものである(破産法二六条一項)から、現実に保証債務の履行として一部の弁済をなした保証人も、もとよりその弁済額につき破産債権者としての権利を行使しうるというべきである。しかし、債権者がその債権の全額につき、破産債権として届出をしているときは、たとえ保証人からその後一部の弁済を受けた場合であっても、債権者はなお、破産宣告時において有する債権全額を届出債権として維持し、右の債権額を以て配当に預りうるものと解せられる(同法二四条)から、このような場合には、保証人はその保証義務の全部を債権者に履行すれば格別、一部の弁済をしたことを理由にその求償債権により破産手続に加わることは許されないものというべきである。そうでないと、債権者の届出債権は全債権額を維持している関係上、当該部分については破産手続上一個の債権を二重に評価することになって、債権者その他の破産債権者に不当な損害を及ぼす結果となる。従って、債権者が破産債権として届出た後に弁済をした保証人は、それによって自己の保証にかかる債権の全額を満足せしめた場合に限り、破産債権者として破産手続に加わりうるものと考うべきである。

(四)  控訴人は、破産法二六条二項により、前記一部弁済の割合に応じて、破産債権者としての権利を行使しうべきである旨主張するが、前示の次第からして、同条同項は求償権者の数人が一部ずつ弁済したことにより債権全部の満足が果された場合の、数人の求償権者間の関係についての定めであると解するのが相当である。従って控訴人の右主張は採用できない。

(五)  そうすると、控訴人主張の求償金債権金二〇八万〇九三二円は、前示のとおり、債権者たる銀行がその債権を破産債権として届出たのちなされた一部弁済に基づくもので、右債権は未だ全部満足に至っていないというのであるから、これを破産債権として認めることができないものといわなければならない。

四  以上によれば控訴人の本訴請求は、前認定の約束手形金債権、同利息金債権、売掛金債権、貸金債権、求償金債権(金五〇〇万円)合計金二七五六万三四一四円につき破産債権確定を求める限度で理由があるが、その余は(当審で拡張した部分も含めて)失当として棄却すべきものである。

よって右と同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 西岡宜兄 喜多村治雄)

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